2015年5月12日

じんのびーと日記 #003





 連休明けのじんのびーとに残っているのは、玄関前のタケノコを器にした生花。コウキやカリン、シュンタロウらが掘ってきたもので、タケノコ掘りというより、背くらべできそうなほどの大物でした。つまりは、タケノコ折り(笑)。根元に近い節を器にしたようです。誰もいなくなった大きな家にいると、残された物たちの存在が目に入る度しんみりしてしまいます。子どもたちの黄色い声、おとうさんやおかあさんの寛いだ笑顔、楽しかった食卓、ますやんと呼んでくれるひとりひとりの声まで鮮やかに蘇ります。キャンプが終わってもこんな気持ちになったことはなかったのに、不思議ですねえ、これが家というものでしょうか。もう何年も前からじんのびーとに住んでいるような錯覚を覚えます。










じんのびーと日記 #002

 

 田んぼでの米作りなど素人が手を出せるもんじゃないだろうとずっと思い込んでいましたが、三年前の春、大土の田んぼオーナーとしてほんの少しの体験をし、さらにそこで出会った輪島の鴻さんの田んぼを何度かお手伝いする経験が徐々に気持ちを変えてくれたようです。聞けば、米はバカ草とか言われるほどに強い植物だそうで、自然農スタイルがもっとも相応しいのでは、などと勝手気ままに想像するまでになりました。かと言って、まったくのド素人が単独で臨むには相手が悪い(笑)。そこへこの連休中に滞在したけんちゃん(福島市)や智子さん(郡山市)ら農家出身の方々の力添えがあり、ますますその気になったというわけです。
 実は、けんちゃんとこの地区の区長さんでもある妹石さんが意気投合してしまい、ますやんがやる気なら手伝おうじゃないかという流れになってしまいました。こちらも男として引き下がれないという、なんともはや場にそぐわない思いも半分ですが(苦笑)。
 子どもたちも手伝った田植えの翌朝の風景、いかがでしょうか?こうして写真で見ると、なんとなく様になってますよね(笑)。みなさんが福島へ帰られたあと、今度はその同じ田んぼで種もみを蒔いてみました。時期が遅いことは読んだり聞いたりして分かっていたんですが、用意した種もみをそのまま放置する気になれずの強行です。四千粒もあれば十分に足りるだろうと思っていたのに、想像と実際はあまりにかけ離れ、ほんの一畳足らずのスペースにすべて収まってしまう少なさ。その上に細かく土をかけ、鳥や小動物に荒らされないように竹のドームをこしらえました。周りの溝にたまる水で湿り気を維持する感じです。ここまでの作業に三時間あまり、できることなら少しは格好になってもらいたいもの。プロが見れば、呆れて物も言えない風景かもしれませんが、気持ちだけはちょっぴり真剣です。金沢の自宅から離れた能登の地へ、はたして何回通えるでしょうか。妻や老いた親と別れて住みつくという選択肢のあることも常に抱きしめながらの様子見です。今回植えた苗は、区長さんから分けていただきました。水の管理もやってくださるとのお申し出があり、ますます真剣度が高まります。










じんのびーと日記 #001

 


 
 能登の家「じんのびーと」の暮らしが始まりました。常に人が住んでいるわけではないので、継続する暮らし、という言い方は当たっていないかもしれません。でも明らかに、此処での生活や暮らしが再び息づき始めました。
 どこからお話したものか。じんのびーとは、ゆっくり、のんびりという意味の奥能登の方言です。何度も能登に足を運んできましたが、これまで「じんのび」というひと言をだれからも聞いたことがないので、すでに消えてしまったんでしょうか。方言が使われなくなるのは、とても寂しいことですが。
 じんのびーとは、福島のみなさんを応援します。放射能汚染による被ばくから少しでも離れたい気持ちがあっても、それぞれが様々な事情を抱えての今だということを、福島の子どもたちとのFKキッズ交流キャンプを通して直に知り得ました。期間の限られた保養プログラムではなく、一年を通して各家庭の都合に合わせ好きなだけ滞在できる、言わば「保養生活」の場を提供しようというわけです。
 この自由気ままな田舎暮らしの象徴とも言いたくなるような出来事をさっそく体験しました。じんのびーとには田んぼも畑もあって、この管理人代わりのますやんはド素人の恐さ知らずを武器に自然農スタイルで野良仕事に精を出そうと目論んでいますが、今回初めての「保養生活」を体験したけんちゃん(福島市)が、耕耘機を持ち出して一二年放置されていた田んぼを耕しはじめました。けんちゃんは農家に生まれ、、子どものころから散々手伝ってきたそうです。自然農は不耕起を柱としていますが、けんちゃんにしてみれば、時間のかかることをしていないで便利な機械を利用すればいいと、ますやんの苦労を慮ってのことだと思います。そして、これこそがじんのびーとの真骨頂となるはずで、此処はそれぞれの気持ちを形にできる創造の場だということです。一枚の田んぼの中に、慣行農法あり自然農ありというパッチワークみたいな田んぼが生まれるのかもしれません(笑)。
 けんちゃんの指導のもと、ご子息のゆうたやFKの常連でもあるゆかい、妹のみなみが裸足になって田植えをしました。けんちゃんはなかなかに鬼教官(笑)、とくにむすこには厳しく、十数本ほど植えたあと、「や〜めた」と場を放棄してしまったゆうたでしたが、農家でもないみなさんが家族丸ごとで田舎暮らしを体験できる貴重な場になる予感がしました。
 連休中のこの「保養生活」は5月2日〜6日まで展開されました。わずか数日の滞在です。でもその中身ときたら、三週間の保養プログラムにも負けていなかったことを、これからゆっくりとご紹介、じんのびーと日記を気ままにお楽しみください。