2013年10月31日

鴻の里 #012 微笑み




 微笑みをたたえる高さんにようやく出会えた。鴻さんの家から何百メートルも下にある自宅から実った野菜をいつも歩いて届けに来られる。田舎の親しいご近所づきあいはよく聞く話だが、九十歳を越えて柔らかな足取りで急坂を上り下りしては顔を出されるのだから驚く。「あんたさん、どこぞの方やいね」と問われ、「鴻さんの友人です。稲刈りの手伝いにきました」とそのまま答えた。思えばそんな会話さえうれしい。能登を歩きながら何人もの方を撮ってきたけれど、そのほとんどどれもが行きずりの旅で出会う片時のものだった。能登に暮らしているわけではないのに、今は少し身近に感じられる。撮ることだけならだれでも簡単にできる世の中だ。だがその方が何を思い、何を哀しみ、何を楽しんでいるかも知らないで、果たして撮ってどんな意味があるのか。九十年は長かっただろうか。どんな人生を歩んでこられたのか。微笑みまじりのひとときを何度でも過ごしてみたいものだ。










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