2013年10月6日

鴻の里 #005 道具




 写真と関わりながらカメラという道具に無頓着な面がある。ほとんど手入れをしない
まま使いつづけている。愛着がないのか、それとも物にも人に対しても必要なはずの気
配りに欠けているのか、いずれにしても買い替えるほどの余裕は常にないのだから大事
に使わなければならない。使い込んだ道具を前に、己の至らなさが悲しくなる。これは
何を編んでいたのか、菰、それとも籠。作業が終わらないまま主はこの場に来ることが
できなくなったのか。まるで音が聞こえてきそうだ。手足がめまぐるしく動く様を想っ
てみる。お会いしたことのない方に寄せるひとときは、やがて迎える己の死へとつなが
って行く。存在すること、消えて行くこと、どちらのこともよくわからないけれど、何
か形が遺されていると切なくなるほどに今が愛おしくなる。その頃と変わらないのだろ
うか、この遺された藁の匂い、道具に宿っているこのものたち。大事に使おう。










0 件のコメント: