2013年10月6日

鴻の里 #004 納屋




 不思議の国に迷い込んだらこんな気持ちになるんだろうか。子どもの頃見たアメリカのテレビドラマに「タイムトンネル」というのがあった。いつもブラウン管の世界に入り込み主人公に乗り移ってドキドキしたのを思い出す。納屋に案内されたひととき、あの時と似た興奮に包まれた。あれこれと説明してくれる章子さんの話に、ため息まじりの返事が出るばかり。「おじいちゃんが編んだ縄がそのままになってるんやねえ」と、これが大阪なまりなのか、遠くから能登に嫁に来た章子さんも、知らない遠い昔を思い浮かべていたのかも知れない。その日々の風景が今もそのままに何ひとつ変わらず、佇むように在った。時間が止まっていた。否、流れずに生きているのだ。おそらくは慎重に扱うべきどこかのお宝よりもはるかに、心なのか下腹なのかどしんと感じる重みがあった。小雨の降る一日だというのに、納屋の中はあったかくて程よく乾燥していた。人の営みは止まっていても、この場所はやっぱり生きている、としか思えなかった。時間とは、いったいなんなんだろう。確かに流れてはいる。人も何もが年老いて朽ちてもゆく。けれど、感じているこの不思議はなんだろう。瑞々しいほどに身体にまとわりついてくるものがある。










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