2013年10月3日

鴻の里 #001 夫婦


 



 鴻さんに出会ってそろそろ三年ほども経つだろうか。はじめは奥さんの章子さんの方だった。「これ、なんて読むんですか?」とおそらく誰もが尋ねるにちがいない、鴻さんたちにとってはお決まりの質問をして、返ってきたのが、びしゃごです、だった。何度も会うことはないだろうと、問い返すのを躊躇い覚えたような顔をしてしまった。せっかく教えてもらったのにその後もなかなか覚えられず、なんとも情けないかぎりだ。それが今では、鴻の里と呼んで何度か訪ねるほどにまでなっている。

 この春に出会ったご主人の豊彦さんとは同い年だった。三年前に豊彦さんの生家に住み始めたおふたりは今、自然農に取り組んでいる。「この棚田の風景を残したいんです」との思いを聞いて、同世代として、さらには半農半写真的な暮らしを夢見ている者として、なんとも羨ましい気持ちになった。田舎暮らしは決して生易しいものではないようだが、何が羨ましいと言って、同じ目的に向ってふたりで歩いていることだった。結婚して三十年あまりにもなる今頃になってときどき考えるのは、夫婦について。好いた惚れたの時代などあっと言う間に過ぎ去った。長く連れ添った夫婦にとっての晩年の日々をもしもちがう先を見て暮らすなら、いったいなんのための夫婦なんだろう。などという思いもめぐらしながら、鴻の里通いを続けてみようかと…。

 自然農とは、耕さず、肥料や農薬を一切使わず、草や虫を敵としないというもの。とても興味がある。 











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